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さすがに初日から遅刻はできないと思ったからなのだろう。
私はしょうちゃんが出かけた後、TVを見ながら部屋の片付けをして過ごした。
荷物の整理をしながら、すごくウキウキした気分でいた。
今日はちゃんと起きて行けたのだから、きっとしょうちゃんは大丈夫!!
と感じた。
これからは私が心配しなくても、しっかりとしてくれるだろう。
その日仕事が終わって帰ってくると、しょうちゃんもいつもよりハイテンションで興奮気味だった。
仕事にやる気になって張り切っているのが、見ていて分かる。
やっと男らしいしょうちゃんの姿を見られるのかと思うと嬉しかった。
諦めかけていたけど、可能性があるならまだ諦めないでいよう!
いつまで待てばいいのかは分からないけど、とりあえずはもう少ししょうちゃんを
信じてもいいのかもしれない。
もう一度信じてみよう~!
段ボールに入っている洋服や食器等を次々と開けていく。
考えてみれば、しょうちゃんと暮らし始めて、ワンルームでも荷物の少なかったのに、
今では片付けるのにこんなに時間がかかるくらい増えてしまった。
二人が一緒にいる時間の長さを感じる。
一緒に住み始めた頃は楽しかったな~
あの頃の二人のままで居られたらよかったのに!
そんなことを思う毎日。
しょうちゃんは神戸に来て変われるのだろうか?
変わって欲しいと願うばかりだ。
マネージャーになれば少しは自覚を持って仕事が出来るのだろうか?
そして、ギャンブル癖も忙しくなれば止めるのだろうか?
やめてほしい・・・私の小さな願いは天に届いてほしい。
まだ片付けはまだ半分くらいしか終わっていない。
でも、しょうちゃんはいよいよ明日から出勤だ。
マネージャーという仕事は大変なこともわかっているけど、
私も覚悟をしなければならない。
毎日早くに家を出ることになるし、帰りも遅くなることが多くなる。
しょうちゃんと話す時間も無くなるだろう。
しょうちゃんも体力的にしんどくなるだろう。
マネージャーの仕事がしっかりできるように、私は支えていけるだろうか?
そんな不安もあった。
神戸に着くと、早速しょうちゃんは合田店長に連絡を取っていた。
そして、しょうちゃんと私は合田店長と食事に出かけることになった。
私は合田店長にいい印象を持っていなかった。
きっと合田店長も私に同じ印象を持っていたに違いない。
食事している間中、彼とは一言も話さなかった。
私はこんな人が店長でお店は大丈夫なのかと思った。
今まで私はサービス業しかしたことがなかった。
人と接する中で培った人を見る目はあるつもりである。
だから、この店長ではきっとお店もそんなには良くはないんだろうと感じた。
食事が終わると、早めにホテルに帰って休むことにした。
明日は引っ越しの荷物が着く。
朝から1日バタバタと忙しくなることだろう。
新しい生活が始まる。
環境が変わると、嬉しい気持ちと不安な気持ちが入り交じって、すごく緊張する。
しょうちゃんは明後日からお店に出ることになったけれど、
私はまだお店は決まっていない。
私は一週間くらいは家の片付けをして過ごすだろう。
それから、面接に行こうと思う。
以前働いていたお店でもかまわないけれど、やっぱり一から始めたいから、
違うお店に行くことに決めた。
私は人の好意に甘えすぎているしょうちゃんは好きではない。
貸してくれた相手の気持ちを考えると尚更だ。
きっとしょうちゃんには分からないことだ。
分かる人なら、お金を借りたりしないだろう。
お世話になっているとは、そういう意味だったの?
今になって、しょうちゃんの言っている意味がわかる。
本当に世話になっている人に、私ならお金を借りるなんてことはできない。
しょうちゃんはそれほど社長を大事に思ってなかったのだと思う。
私のこともそうなのだろう。
そう思うとすごく傷ついた。
傷ついたけど、平気な振りをしていく。
実際私はすごく辛くても、人には辛そうには見えないらしい。
人に同情なんてされたくはないから、辛く見えないようにしてるだけだ。
しょうちゃんにも私は痛くも痒くもないようなことのように見えていることだろう。
しょうちゃんは借金を払ってもらったからだろうか?
何だか気持ちが晴れ晴れとして何事もなかったように軽やかに見える。
お世話になった店長や社長にも一年間のお礼を済ませ、
新幹線の時間まで喫茶店で時間を潰した。
私の気持ちも知らないで、しょうちゃんは陽気にベラベラと喋っている。
私はその調子の良さに不快を感じ始めていた。
と周りのことはどんなに迷惑がかかっているのかお構い無しだ。
お金を貸している社長だって104万円なんて大金を簡単に貸しているわけではないだろう。
どれだけ自分勝手なのだろうか?
「自分で何とかしなさいね」
そうは言っても人に迷惑がかかっていることは気がかりだった。
私がお金を出せばきっとこの先もずっと頼ってしまうことはわかっている。
でも、返さなければいけない。
この人が、この先私を当てにしないで社長にお金を返す方法はないだろうか?
考えたけれど、そんな方法は思い浮かばなかった。
結局、私はしょうちゃんの甘い考えが当たり前になるように
お金を出さなければならないのか、と諦めた。
将来、いい結果の出ないことは目に見えている。
どこまで私の我慢が耐えられるのかわからない。
でも、私が我慢さえすれば済むのかもしれない。
この人が自分の言ったことも守れない適当な人間だということは、
何度となく見てきてわかっている。
そのことを軽蔑し、いつ私はこの人を冷たく見捨てる日が来るのだろう。
「出してあげるわよ!
その代わり、お小遣いも誕生日もクリスマスも何もないわよ!!」
「ヒロがそうしたいなら、それでいいよ!」
銀行からお金を卸しながら私は思った。
こんなの、良くないよね~
いつかこの人は私が戸籍上の妻ということを利用して私を騙すかもしれない・・・
それも覚悟した。
それに人にお金を出してもらうのに、何であんなヘラヘラとしていられるのだろうか。
「今ごろ何言ってんの?
自分で作った借金なんだから自分で何とかして!」
都合が悪いことはギリギリまで言わないくせに、
結局は自分の後始末も自分で出来ないで今さら何で人に頼る必要があるのか!
人をナメているとしか思えない。
私が見てきた中で、自分でキッチリとケジメがつけられたことは一度もない。
ケジメられるどころか、逃げている。
「人の借金を払う義務は私にはないけど!
別にあんたの借金払うために働いてるわけじゃない!一円も出さないわよ」
とキッパリ言った。
「お金、貸して!」
「旅行のお金もまだ返してもらってないのに、貸さなきゃいけないのよ!」
私はもう貧血を起こしそうなくらい、頭に血が上って怒りまくっている。
「払わないと神戸に行けないよ」
「行かなくていいんじゃない?
そんなことは今わかったことじゃないんじゃないの?
最初から私に払ってもらおうと思ってたんでしょ!」
しょうちゃんを少しは認めてあげなければいけないと思い始めて、
私は以前よりは穏やかな気持ちでしょうちゃんを見れるようになった。
そして、相変わらず仕事にのめり込んではいたが、
ほんわかした気持ちで仕事をするようになった。
こんなに気持ちに余裕を持つと、体も楽なような気がする。
心も体も頑張りすぎていたことに気づく。
気持ちが穏やかになると、せかせかとしていた毎日が
何だかゆっくりと感じられた。
こんな心がリラックスした日々がずっと続けばいいのに・・・
何事もなく平和な日が過ぎ、春が来た。
気が付けば、1年が過ぎていた。
私はようやく広島にも慣れ、ずっとここで平和に暮らすものだと思っていた。
ところが、ある日しょうちゃんが「神戸に帰る」と言い出した。
神戸店のマネージャーの大塚さんがちょくちょく広島に来ていたのは知っていたのだが、
彼は店長の合田さんと性格が合わずお店を辞めることにしたらしい。
そして、神戸店には後任のマネージャーをする人がいなかったので、
広島ではその見込みはないけれど、今がチャンスだと思ったらしい。
神戸に帰ればしょうちゃんはきっとマネージャーになれるだろう。
しかし、しょうちゃんは安易に考えているように思えてならなかった。
マネージャーは役職が付く分、広島店よりは売上も上がっているみたいだし、
お給料も今よりはいいのだろう。
けれど、マネージャーというだけ仕事も大変になることだろう。
ゲームをして遊んではいられなくなるし、遅刻ばかりしているしょうちゃんが
今のままではいられなくなる。
しょうちゃんはちゃんと責任ある立場を全うできるのだろうか?と
私は心配だった。
私のことを思ってそう考えているのは嬉しいけれど、
しょうちゃんはわかっているのだろうか?
でも、私も広島よりは神戸の方が好きだった。
広島県の気質はあまり好きじゃなかった。
本音と建前は、日本人のいい所でもあるけれど、
はっきりと意思表示できないのはあまり好きではなかった。
それにはっきりと言えないのに後で文句を言われるのはイライラする。
関西の人たちのようにはっきりした嫌なものは嫌と言える自己主張が
出来る人たちが私は好きだった。
この1年間いい人たちもいたけれど、私はあまり好きにはなれなかった。
だから、内心はこれでやっと神戸に帰れると思うと嬉しかった。
神戸に帰るまでの間、引越しの準備、神戸で住むマンションの契約などで
バタバタしながら1カ月を過ごした。
私はお店には毎週日曜日と月曜日の連休にしてもらって
広島と神戸を行ったり来たりしていた。
そして、ようやく何もかもがスッキリと片付いた頃、
またしょうちゃんが何やらもぞもぞと言いにくそうにしている。
何なのかと思えば、
「社長に104万円借金がある。」
のだった。
「何なのその借金は?それにそんなお金どこにあるの<`~´>?」
と私は腹がたった。
いつからそんな借金があったのかも、そんな金額の借金が何であるのかも
私には理解できなかった。
なにより私にずっと隠してきたことの方が許せなかった。
私と結婚する前にギャンブルで作った借金らしかった。
「結婚前の借金を私が何で払うの?
それに借金があるまま普通結婚しないんじゃないの!!」
また私は怒りが爆発してしまった(ーー;)
「早く着てみてよ!」
と私が新しいワンピースを着てくるのを待ってる。
ふたりで出かける時に着るから今でなくていいじゃない!
と思うけど、嬉しそうな顔をして待ってる。
まるで、私が初めてセーラー服を着たときの父のようだった。
父は中学生になる娘の成長を嬉しそうに見ていた。
しょうちゃんもその父と同じようにワンピース姿の私を見て微笑んでいた。
本当に嬉しそうに
「今度のお出かけの時は、これ着てね!」
と言った。
ゲームをしている時は子供のまま大人になったように感じるけれど、
今みたいに何だか父親のような感覚になる時がたまにある・・・不思議な感覚だ。
しょうちゃんは、私がキツい事を言っても変わらず私に優しかった。
私に不満はないのだろうか?
それとも言えないだけなのだろうか?
私は近くに居すぎて不満ばかりなのに変わらないままのしょうちゃんが憎らしい。
久しぶりにふたりでお風呂に入った。
前はよく一緒に入っていたのになあ~
やっぱり肌に触れ合うのは安心するというか心地いいというか、何だかとてもリラックスする。
お母さんの胸に抱かれた赤ちゃんのようにすやすやと眠れそうなくらい。
人の肌ってこんなにあったかいミルクみたいだったっけ?
普通の奥さんってこんな幸せに包まれて毎日心地いい眠りにつくのかしら?
その夜の私は安堵感に包まれて、すぐに深い眠りに落ちてしまった。
しょうちゃんが帰ってくるのを待っていた。
午前零時を回った頃、ドアのベルが鳴った。
今日は暇だったのか早く帰ってきた。
今日も暇なの?
どれだけやる気がないお店なの?
いくら店長が昔からお世話になっているからと言っても、こう毎日が暇なんじゃ困るわ。
まだ一年目だから仕方ないのかもしれないけど、生活できなかったら仕方ないじゃ済まないわよ。
結婚する時の約束はどうなってるの!
いつになったら、私は夜の仕事を辞めれるの?
自分で言ったこともきっと忘れている。
夜の仕事を辞めるどころか、私の収入がなければ今の生活は無理なのだ。
しょうちゃんのギャンブルさえなければ、普通に暮らせるだろうけど、
私が仕事を辞めたところでこの癖は直らないのはわかっているし、
お金がなくなっても私が何とかしてくれると思っているから、
今のうちにお金を貯めておくことしか私にはできない。
「早くあんな暇な店辞めればいいのに!
いつまでいたって変わらないでしょ!!」
と私は常日頃から思っている。
でも、しょうちゃんは十代の頃から可愛がってもらっているから辞めたくないのだと思う。
いい影響もないように思うけど。
しょうちゃんが着替えている間にお料理を温め直して、
二
人で普通の家庭には遅すぎる夕飯を食べた。
「今日、何してた?」
「デパート巡り!!」
そんなことは聞かなくてもわかっているはずなのに、なぜ聞くのかと思いながらも私は答えた。
ゴミの山を見ればわかるはずでしょ!
50万使ったとは思わないだろうけど・・・。
でも、そうだとわかっても怒らないような気がする。
今でも、私が新しい服を着ても高い化粧品を買ってもキレイでいることに素直に喜んでくれる。
普通の旦那さまなら「無駄遣いするな」と叱られるようだ。
そういう意味では理解のある旦那さまなのかもしれない。
そう考えると、何だかちょっとかわいそうになってきた。
私のことを自分のことのように喜んでくれているのに、
しょうちゃんが何か言っても私は素っ気なかった。
私は仕事のことばかりで、
しょうちゃんが楽しそうにしていることを一緒に楽しんであげられなかった。
「今日ね、ワンピース買ったの!」
と言ってみた。
「後で着てみせてよ」
やっぱりかわいいしょうちゃんのままだ。
私は結婚して、お金の不安から仕事中心の生活になり、
自分でも気付かないうちにすっかり変わってしまっていたのだろうか?
しょうちゃんが帰ってくるのはまだまだ遅いけれど、とりあえずは先に作った。
今日買った洋服をクローゼットに納めながら、帰ったときのしょうちゃんがどう反応するのかを考えた。
いくら鈍感な男の人だって、あんなに買い物をして出たショッピングバッグを見れば、
誰だって買い物に出かけたことぐらいわかるはずだ。
そこでしょうちゃんは何と言うんだろうか?
今まで私がイライラしているのはわかっているはずだから、
こんな買い物をするのも仕方ないと思うのだろうか?
それとも勝手にこんな買い物をしたことに怒るだろうか?
でも、日頃から
「自分には、特に化粧にはお金をかけなさい。
自分の奥さんがキレイでいることに何の問題があるのか?」
と言っている。
別に文句を言われることはないだろう。
ただ、金額を聞けば驚くだろうが、察しはつくだろう。
ただしょうちゃんが勘違いをしなければいいが・・・という不安もある。
私がこんなに使っているんだから、自分も使ってもかまわないだろうと思われることだ。
もし、そんなことが起こった場合は、私はしょうちゃんには内緒の貯金をすることに決めた。
とりあえず、しょうちゃんが帰るまでTVでも見てのんびりしよう。