付き合う条件

お店を出て、二人少し歩いた。

「ごちそうさま！
今日はありがとうございました！」

って言うと、

「また誘ってもいい？」

って聞かれた。

「いいわよ！
その代わり条件があるんだけど・・・」

と私は答えた。
不思議そうに私を見てる。

「もうお店には来ないで欲しいんだ！
私、そういうの嫌だから」

私は中途半端な関係は好きじゃないから、
付き合うのならお店に来て欲しくなかった。
そして、付き合わないのなら店外ではもう会う気はなかった。
女の子の中には彼氏がお店にお客さまとして
来ている人もいたけど、
何だか売上の為に付き合っているような感じがしたから。

彼は嬉しそうに

「わかったよ、行かないよ！」

って言ってくれた。

まだ一緒に居たい！
別れたくないけれど、
明日も仕事だし
我慢してタクシーに乗って帰る。
タクシーの中で彼の事を考えていると
ポケベルが鳴った。

[0843 41(おやすみ 昇一)]

思わず笑顔になる。

タクシーを降りてマンションの近くにある公衆電話に走る。

[0843 38(おやすみ 沙也加)]

と打ち返した。

お寿司を食べに行く

二人ともお茶を飲み終わって、
食事に行くことになった。
何処に行くのかと思ったら、
お寿司屋さんに入って行った。　　　　　　　　　　

高そうなお店だけど、大丈夫かしら？

内心はそう思ったけど、
緊張でそれどころではなかった。

何を頼めばいいのかわからなかったので
しょうちゃんに任せた。

ドキドキして喉を通らない。
あの甘酸っぱい初恋の後、
もうこんなにドキドキするような
恋はできないだろうと思っていたけど、
こんな歳になって食べ物が喉を通らないくらい
人を好きになるなんて思ってもみなかった。

緊張で胸が一杯ですぐおなかいっぱいになった。
それはしょうちゃんも同じだったみたい。

何を食べたのか何を話したのか
あまり覚えていない。

待ち合わせ

お店が終わって、しょうちゃんには
近くの喫茶店で待ってもらった。

喫茶店に入ると、しょうちゃんは
ホットコーヒーを飲んでいた。
私はミルクティーを頼む。 

私は、男の人とこんなふうに会うことには
全く慣れていなくて緊張していた。
しょうちゃんを誘ったのは私の方だけれど、
今まで男の人を自分から誘ったことなんて
一度もなかったから
そんな事をした自分に驚いていた。
奥手の私の何処にそんな勇気があったのか、
今でも疑問だ！

優しかったし、
ただ他のお客さまと違ってこの人なら
私を甘えさせてくれるかもしれないと思った。
そして、素直な自分でいられそうな気がした。

誘ったのはいいけれど、
今になってドキドキしてきた。
どうしよう！

アフターのきっかけ

そんな楽しい会話も、閉店が押し迫ってきていたせいか
だんだん口数が減ってきた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、
名残り惜しいからなのだろうと思っていたけど、
何か言いたそうな雰囲気！

何を言おうとしているのかしら？

でも、なかなか言ってくれない。

もしかしたら食事にでも誘いたいの？

「ご飯食べに行く？」

としょうちゃんを食事に誘ってみた。

お客さまとは店外では会わないと決めていたのに、
なぜそんなことをしたのか自分でもわからない。

ただ誘いたいのに誘えないしょうちゃんは
水商売とは思えないくらい可愛く思えた。

女性のタイプ

女性のタイプは？
と聞いてみた。

「篠ひろ子と大原麗子！」
としょうちゃんは言った。

「年上が好きなの？」
って聞くと、

年下と付き合ったことがないらしい。

22歳の男の人にしてはかなりオヤジだと思った。
普通、好きなタイプをあんな母親みたいな
年齢の女優さんの名前なんか出さない。
大概、アイドルの女の子や
もっと若手の女優さんを言うのに、
変わった人だと思った。

大人の女の人がタイプなのに、
何で私みたいな子供っぽい女の子を
自分のタイプだと思ったのかも分からなかった。
色気も大してあるわけでも、
そんなにスタイルがいいわけでもないし、
篠ひろ子や大原麗子には程遠い！
でも、年齢を重ねて、
あんな魅力的な女の人に
なれたらいいな とは思っていた。

お笑い

この日は一週間前と違って、いろいろ話してくれた。 

その頃、やしきたかじんが大好きだった私。
「東京」が流れるといつも口ずさんでいた。
しょうちゃんもたかじんが好きで
仕事が暇な時は有線に電話して
たかじんの「東京」をリクエストするのだ、とか
たかじんのコンサートに行ったら、
喋りが巧いから歌った曲は２曲くらいで
ずっと喋りで終わる事がある、とか。

私も小学生の頃、
吉本新喜劇と明石家さんまが好きだった。
 
土曜日のお昼は学校が終わると
走って家に帰って
吉本新喜劇を見ていた。
日曜日も朝から吉本新喜劇を見た。
そして、さんまがデビュー当時出ていた
「ヤングオーオー」も
日曜日の夕方は必ず見ていた。


本当はこんな話をする人だったんだね。

意外な職業

一週間が経って、また来てくれた。

なんで？
この前楽しくはなかったはずでしょ？

でも、せっかく指名で来てくれたのだし、・・・

いらっしゃいませ！
こんばんは。

ニコリともせず、黙っているしょうちゃん。

水割りを5～6杯飲み終わった頃話し始めた。

「この前、コンビニで見たよ！」

コンビニと言えば、この辺りだと角のローソンしかない。
そのコンビニはほぼこの辺りで働く人しか使わないので、
何の仕事してる人なのかと疑問に思った！

私、目が悪いから遠くだと分かんないのよ！

でも、考えてみたら記憶にある！
コンビニでこっちを見てる人がいた！
でも、お店の奥の方だったので、
勘違いかもしれないと思ったのだ。

もしかして、黒のＴシャツ来てた？

そうそう！
それに沙也加ちゃんが出勤するのを毎日見かけるよ！

えっ？
同業者なの？

意外だった！
てっきりお昼間の仕事をしている人だとばかり
思っていたから驚いた。

何処のお店？

・・・・・・

なかなか教えてくれないので、
いつも私が通る道にあるお店ってどこ？
って考えて、
思い付いたお店の名前を言ってみた。

あまりにも当たらないので、
まさかね！？と思いつつチェーン店の名前を言ってみる。

そう！

嘘っ？そうなの？

お店の人も教えてくれればいいのに、何で教えてくれないんだろ？

しょうちゃんとの出会い

私には付き合っている年下の彼氏がいる。
まさかチェーン店のボーイだとは思わなかったけど！ 

しょうちゃんと初めて会ったのは、
前々からうちのボーイさんに
「いい子入ったから一回飲みに来て下さいよ～。」
と言われていたらしく、
飲みに来て、お店の人の勧めで指名してくれたらしい。
神戸の人らしくお洒落な人で、背も高くスリムだった。
私はこれまで年下の男の人に興味を持ったこともなかったし、
付き合ったことがなかった。
弟にしか思えなかった！ 

しかし、しょうちゃんの場合、本当は22歳なのに
27歳くらいにしか見えないくらい老けていた。
22歳とは思えないほど落ち着き払っていた。
後で本人が言っていたことなんですが、
落ち着いていたんじゃなくて、
私があまりにも自分のタイプだったので、
緊張していただけだったようだ。

指名された日、私は
「ちょっと苦手なタイプだなあ」
と内心思っていた。
私が何を話してもあまり語らず、
ゆっくりと水割りを飲み、帰って行った。
「のっけから調子狂うな～」と思いつつも
「まいっか～」
とあまり気にせず、いつものように
元気バリバリに仕事した。

ダイエットの理由

でも、何でダイエットしようと思ったのだろう？
そう思っていたところに
ありさが愚痴を言った！

今ね、付き合おうってしつこい人が２人いるの！

今までのありさの会話の中でよく出てくる男の人がいた。
もしかしたら・・と思ったことがあったが、
その時はそんなに気にしなかったが、やっぱりそうだ！

徳田さん？

何でわかったの？

だって、よくマネージャーの名前が出てきてたもの！

でも、疑問がひとつ。
１人は前のお店のマネージャーだけど、
もう１人は？

もう１人は誰？

と聞いてみた。

誰にも言わないでよ？
ヤバいから！
あのね、岡田さん・・・

えっ？
ボーイの岡田さん？

うん！

バレたらヤバいじゃない！
２人とも首よ！？

このお店では、従業員と女の子が
付き合うのは禁止されている。
もしわかった場合は
２人とも首にすることになっている。

わかってるよ～！
でも、もう遅いよ！
たまに家に泊まりに来てるもん！

私も人のこと言われへんけど、・・

沙也加ちゃんはまだいいやん！
チェーン店のボーイさんやから・・・

なるほど！ダイエットの原因は男か！

ありさのダイエット

新しいお店に入って慣れた頃、
ありさがエステに通い始めた。
何を思ってなのかは知らない。
まあ、確かに細い方ではないから、
変わろうとしていることはいいことだと思う。
出勤前にエステに行ってからお店に来ているらしかった。
背中を見ると、まあ～るい跡がついていたことがあった。
そして、いつも合間にお菓子を食べてたりするのに、我慢していた。

毎回、体重を計るから減ってないと
お姉さんに怒られるらしい。 

ふ～ん、通うだけじゃダメなんだ！ 

たまに何だか得体の知れない
飲み物を飲んでたりする。
見てると、辛そうで可哀想になってくる。 

もっと健康的に痩せれないものなのかな～ 
変なジュースを飲んだり、
食べるのを我慢するより、
普通にバランスよく食べて
運動するほうがいいと思うんだけどな～
それに、エステで痩せても元の生活に戻れば、
リバウンドしないのかな～ 

と思った。

何週間か経ってありさが
カラムーチョを食べているのを見つけた！

何やってんの！？

もう、いいの！
明日またお姉さんに怒られに行くよ！
後３回行けば終わるし・・

ねえ、いくらかかったの？

50万！

そんなにかかるの！？
で、何キロ痩せたわけ？

う～ん、２キロ！

２キロで50万か～
もったいな～い！


結局はありさのダイエットは失敗に終わったのだった！